ただの私の脳内

音楽と映画と本と旅と語学

コミュニケーション

 

ベッドに座ってナットキングコールを聴きながら自分の時間を過ごす休日前夜の風呂上がりってどうしてこんなに幸せなんだろう。同世代の大半がこの歌声を知らないまま死んでいくのかと思うといつだったか何気なく彼のベストアルバムを手に取った自分を褒め称えたくなる。

 

ちょうど一年前がワーホリを終えた帰国前の期間を使ったオーストラリア東海岸鉄道旅の出発日。つまり帰国からも一年が経とうとしているわけだが、それからずっと大切にしていた自分ルールがひとつある。

 

誘いを断らない

 

会社員として働き始めてから心掛けていたこと。そもそもシフト勤務で周りとあまり予定が合わないゆえに出来ることだが、都合のつく誘いは基本的に受けることにしている。大人だからその多くはお酒の席だ。

共働き家庭で一人っ子として育った私は、一人で過ごすことに慣れている。逆に言えば誰かと共に過ごす時間を苦痛に感じることが少なくない。いや、少なくなかった。自分を見せることが得意ではない上に他人の言動に拒絶反応を起こすことも多く、要するに適応力と受容力とコミュニケーション力を著しく欠いていた。特に中学から大学の前半あたりまでに特有の群れる感じは非常に不快で、今でもその感覚は残っている。だから誘いなんてノーと言ってしまいたい。それがおそらく消えことのない自分の本質。

ただ、大学生活を通してそれも少しずつ変わってきた。変えてきた。地元より遥かに多数で多様な人たちと出会える東京で、ちゃんと他人と向き合いたいと心から思っていた。そのために、18才の私は生まれて初めてのアルバイトにバーテンダーを選んだ。当時は別にお酒に興味なんてなかった。近い距離でお客さんと関われること、そして何かしらバイト外でも役に立つ知識やスキルを身につけられること、それが決め手。

このバイトがめちゃくちゃ大変だった。慣れない東京&バイト&終電、それだけでも十分なのに、飲めもしない100種類近くのウイスキー、無限に存在するカクテル、やたら名前の長いワイン、そして心のパーソナルスペースに土足で入り込んで来る大人達。それなりに働けるようになるまでどれだけつらかったかなんて語っても仕方ないので研修時給から脱するまでに9ヶ月かかったことだけ伝えておく。

根性だけはあるのでこのバイトを留学に発つまでの3年間続けた。自分が指示を出して店を回して、オリジナルカクテルに値段をつけて提供して、そうなるまで続けたことで得たのはお酒の知識だけではない。お酒の場で生まれる人間関係を知った。

「心のパーソナルスペースに土足で入り込んで来る大人達」の中には今思い出したってしんどいケースも含まれてはいたけど、大半は私が「共有スペース」の一部を勝手にパーソナルスペース扱いしていただけで、土足も何もそこは最初から私のルールで動く場所ではなかった。それまでの自分はおそらくこの世には「わたしのスペース」と「あなたのスペース」しかないと思っていて、だけどそこに「共有スペース」を持つことでコミュニケーションが生まれるのだと常連さん達と関わり続けることで学んだ。

その常連さん達とは店を辞めて3年以上が経つ今でも関係が続いており、当時の店長やスタッフもみんなで年に何度かは飲んでいる。

 

今でも「共有スペース」の見極めはとても難しい。かつての自分のようにパーソナルスペースを勝手に展開している人は少なくないし自分だって今でもその癖は残っている。だけど、お酒の場がもれなく「共有スペース」であることは確かだと思う。だからお酒の席につく時にはバーテンダーのサロンをつける時と同じ心持ちでスイッチを入れる。他人を受け入れるスイッチ。自分を見せるスイッチ。お酒の場だけは確信を持って「今がスイッチを入れる時だ」と思える。

結局、他人に興味はあるのにどう関わって良いのか全く分からなかった私にとって、お酒の場は「仕事」だったことも相まって「今から他人と関わりに行くんだから適応して受容してコミュニケーションするんだぞ」という切り替えが出来るセッティングだったということ。その修行を積んできたので今でも距離を縮めて接したいと思う人とはお酒の場を持つことが重視。

そんなことしなくても最初から気の合う相手とだけ、あるいは一人で、生きていく方法もあると思う。でも私はそれでは満足していないし、少なくとも今の仕事はそれでやっていけるものではない。だから、より多くの人とお酒の場を共有することで、向き合おうとしている。知ろうとしている。何かを。

 

余談だが、最初のバーを辞めてからもいつもお酒のバイトをしていた。クラブで働いてバーとはまた違った「共有スペース」の在り方を学んだ。ワーホリ時代もお酒に力を入れるレストランで働いていた。クラブはあんみつ屋と掛け持ちだったから朝までクラブで働いてそのままあんみつ屋へ向かうのが週末の恒例で、如何に場の空気を壊さずにテキーラから逃げるかという研究を重ねたりもした。

あんみつ屋を含めお酒ではないバイトも経験したし、それなりに面白かった。今の仕事も好きだ。でも猛烈にお酒の仕事が恋しくなることがある。バーの当時のスタッフで一日限定復活営業しようという話がよく出ているけど実現することはないだろうなあ。

 

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ひとしきり語らせていただいたがつまるところビールが飲みたいなあってだけの話のような気もする。美味いんだよなあ、働いたあとのビール。