ただの私の脳内

音楽と映画と本と旅と語学

舞台裏

コーラス・ラインの来日公演を観に国際フォーラムへ行って来た。ララランドもグレイテスト・ショーマンもマンマ・ミーアも気に入らない私だが、生粋のミュージカル好きというのは嘘ではなくて先月も二度目のレントの来日公演を観に行ったところ。

素晴らしい公演だったという感想は別に私が述べる必要もないと思うのだが、コーラス・ラインについては作品の性質そのものが他とは異なることもあり、純粋に作品に入り込むだけではなく独特の楽しみ方をしている自分に気がついた。

 

乃木坂46と重ね合わせて見ていたのだ。

 

私は本も映画も舞台も森を見ずに木どころか葉脈を凝視しているタイプの観客なのであらすじを説明するのが苦手なのだが一応トライしてみる。ブロードウェイのバックダンサーのオーディションの話。以上。

…とにかくオーディションの会場には様々な特性および経歴を持つ20代が集う。共通点は「この仕事が欲しい」だけ。なぜダンスを始めなぜ今も踊っていてなぜこのオーディションに来たのか。どんな夢や理想を持ちどんな現実に苦しんでいるのか。全てが異なる。

 

ダンスが好きで好きで仕方ない人、家庭の不仲や学校でのいじめから逃げるように踊り始めた人

スキルはあるが見た目がパッとしない人、スキルも見た目もそこそこ良いのに一番にはなれない人

ブロードウェイの舞台に立てれば幸せな人、バックダンサーでは満足できない人

若すぎてガキだとからかわれる人、30才を目前に焦りを隠し切れない人

自信がなくて振りを追うのに必死で下を向いてしまう人、間違えても間違えてもポーズだけは決め続ける人

トップにはなれなかったのにトップの素質があるからバックでは踊れないと言われる人、トップに憧れ続けて何度も何度も諦めたはずなのにやっぱりその場所を目指す人

このオーディションを最初の一歩とする人、このオーディションを最後の(あるいはそれに近い)賭けとする人

 

そんな姿を目にするうちに自然とステージの上に「推しメン」の存在を認識する。これがオタク特有の現象なのか国際フォーラムのホールCに居た観客に共通する現象なのかオタクの私には分かりかねるが、この人に受かってほしい!と強く思う一人を私は見つけてしまった。

オーディションが進んでひとりひとりのバックグラウンドが明らかになる度に、最初は限られた枠を争うだけだった参加者同士が同じ鏡の前で踊り続けることで少しずつ共鳴し始める様子を見る度に、全員を応援したくなる、いわゆる「箱推し」的な気持ちも確かに存在するのだが、それでもやっぱりどうしても受かってほしい一人がいる。私の場合はシーラ。実は上につらつらと書いたオーディション参加者の対比、後者はすべてこのシーラに当てはまる内容である。私の乃木坂の推しメン衛藤美彩さんと重なるところもあったりなかったりするのは明白で、ああそうか、コーラス・ラインは根本的に乃木坂46なのか、という謎の結論に至った。

 

いや、というか、逆か。そもそもショービズとはそういうものなのかもしれない。ミュージカルで言えばドリームガールズだってそうだ。歌が抜群に上手いが太っていて性格に難ありなエフィはコーラスにされ見た目が素晴らしく良いディーナがメインボーカルになったことにエフィは怒る。ディーナはディーナで自信があるタイプでもなくエフィの方が上手いことは分かっておりその後の輝かしいキャリアもプロデューサーの言いなりになるのみ。だけどエフィもディーナもそれぞれ色々あってさ、そこは作品を観てほしいんだけどさ、それでもステージに立って歌うわけ。

今回はバックステージ見学というものにも参加したから余計に実感するのだろうが、コーラス・ラインのキャストだって役とはまた違う様々な思いを抱えて踊っていたはずで、これはきっと握手アイドルだろうとブロードウェイの役者だろうと何だろうと同じなのだ。

 

もっと言えば別にプロに限った話ではない。二百名ほどのメンバーたちとダンスのステージ(三公演で五千人くらい入るなかなかの規模のイベントもあったのだ)を作り上げることに大学前半の三年間を捧げた私も、一緒に踊っていた人たちも、きっとそう。私が三列目の端から二番目で踊っていたときにセンターでピンスポを浴びていた彼の思いとか、私が最後の公演の練習開始と同時に腰をぶっ壊して本番まで毎日コルセットを巻いて踊っていたときそれが初めての公演だった後輩が何に悩んでいたかとか、それが分かるほど出来た人間ではないけれど、みんな思い通りにならない色々を抱えてそれでもステージに立ってたんだと思う。

 

というかきっと舞台だけではないね。今スタバで隣に居るお兄さんもきっとそうだね。みーんな色々あるけど今日を迎えている。その「色々」の大半は別によくある話で、だけど当人にとってはそれでは済まなくて、ずっと抱えて生きていく。

 

なんか、色々ありながらそれでもやっぱりしがみついて必死に頑張るのは決して美しくはないけれど、かっこいい。と思った。頑張ろう。と思った。月並みな人間なので月並みなこと言いますけども。

他人の「色々」を積極的に想像するほどの余裕なんて、少なくとも私にはない。だからそこを一切考えさせずに完成されたステージだけを見せてくれるアーティストやミュージカルが好き。同時に、想像せずとも分かりやすくオープンにしてくれることで裏側の存在を忘れずにいさせてくれるアイドルも好き。

 

そして、そんな「色々」こそが自分が自分である所以なのだと。あれがなければとかあのときに戻れたらとかそんなのは無意味で、そうして生きてきたのが自分という人間。だから最悪な記憶もコンプレックスも何もかも、消化して昇華して強くなるしかない。自信を持てるものなんて自分で何とかして作り上げるしかない。

 

同年代というのもあり、負の感情をダンスにぶつけるコーラス・ラインのみんなに何だか今日はすごく励まされた。もう踊れないけどそれはそれで私の「色々」としてちゃんとバネにして他のことを頑張ろうと思えた。それくらい舞台に立っていた経験は今でも自分の根幹だからこそ、挫折したことを餌にして、もっとやれると思えた。

 

ステージの上ではないけれど、ステップを踏むわけではないけれど、地に足つけて歩いてこうな。コーラス・ラインのみんなも頑張ってな。乃木坂46のみんなも頑張ってな。今スタバで隣に居るお兄さんも頑張ってな。


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バックステージの匂い、懐かしかったな。