ただの私の脳内

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変身

 

衛藤美彩ちゃんとお揃いのリップグロスを塗って握手会モードに入る作戦です」

 

勤務後に上司と同期と真面目に語り合っていた際に私がどのようにして「頭が固く考えすぎる」性格から少なくとも仕事のときは抜け出せて数字を取れるようになったのかという話題になったとき、そう答えた。ふたりには「ちょっとそれはよく分かんないけど、」と流されてしまったが私は真剣だ。

 

営業を始めて割とすぐ壁に当たった。成績がひどく悪いわけではなかったが、確実に逃してしまう層があった。尊敬している当時の上司には「アンタは正論を正面から投げつけてるだけ」と言われていたけどそれの何が悪いのか分からなかった。私は正論を言いたい。それを嫌がる相手からの売上などいらない。…いらない?…ほんとうに?

 

クソ真面目なのでまあまあ悩んだ。自分の性格を変えられないことなど百も承知だった。白か黒か。ゼロか百か。そういう人間だ。さらに言ってしまえばそんな自分が(たまに絞め殺したくなるほど嫌いになるけど基本的には)割と好きだ。自分にも他人にも厳しいせいでたくさんのものを失ってたくさんのものを得てきた。それはもう私の生き方として確立されている。

 

だから「愛想よく」とか「笑顔で」とか「褒める」とか「やわらかい言葉遣い」とか「(物理的にも心理的にも)目線を合わせる」とか無理無理無理無理!他人に媚びろと言うのか?という感じだったのだけど、人は求めるものに都合よく出会うもので、どうやってあの抜群のタイミングで私の人生に現れてくれたのか、魔法か、ってくらいの勢いで乃木坂46衛藤美彩さんに落ちた。それはもう急に落ちた。びっくりした。

彼女の言動や仕草、立ち振る舞いなどあれもこれもヒントだった。乃木坂の中でも握手会の評判がよい彼女との握手会レポを読み漁った。そしてついにはそれまで正直バカにしていた握手会に行くことにした。

 

プロだ… この人は営業のプロだ…

 

それが初めての握手会の感想だった。頭が固く偏屈で不器用で自信のあるフリが得意な私が学ばなければいけない要素がその三秒に詰まっていた。可愛い子ぶりっことは違った。媚びているとは全く感じなかった。ただひたすらプロの仕事だった。忘れたくないと思った。握手会をバカにしていてごめんなさい!

 

でも私は衛藤美彩ではないからそんなことはできない。私には、できない。頭が固く偏屈で不器用で自信のあるフリが得意な「私」にはできない。

 

いや、

 

待って、

 

仕事してるときって私がありのままの「私」である必要なくない?握手会で見せてくれた姿が人間としての「衛藤美彩」そのものだとでも思ってる?そんなわけなくない?

 

衛藤美彩の握手はプロだった。媚でも偽でもなくプロの仕事だった。あの場で彼女がありのままの彼女である必要などはなく、プロの仕事をしてくれることに意味がある。給与とはありのままの自分でいることにより得られる対価ではないのだ。私も、プロの仕事をしよう。

 

そこからは早かった。その時期に彼女が紹介していたディオールのリップグロスを購入した。765番。黒パッケージで埋め尽くされたメイクポーチの中でそれはもう堂々たる浮きっぷりのキラキラピンク。

そのままの自分で向き合うべき仕事であればこれまでと変わらず赤やベージュを塗る。本来の自分を生かせる仕事はやっぱり好き。でも論理だけではどうにもならない仕事の方が多いくらいで、そういうときは衛藤リップを塗って握手会スイッチオン。彼女ならどう答える?どう接する?と考えながら進めていく。もう「愛想よく」とか「笑顔で」とか「褒める」とか「やわらかい言葉遣い」とか「(物理的にも心理的にも)目線を合わせる」とか、迷わない。

この作戦をわたしは当時の上司にも宣言していたので偏屈モードに嵌まってしまい苦しんでいるときは「アンタ、美彩ちゃんは?忘れたの?」と言ってくれた。良いチーム(泣)ありがたい(泣)

 

つまるところ、私の出した結論は、自分の特定の部分を変えようとするのではなくいっそ一時的に別の誰かになってしまうくらいに自分ごと手放す方が早いということ。そしてその方が結果として無理なく自分を保てるということ。押さえ付けて封をしようとすると苦しくて苦しくて本来の自分が死んでしまうから、逆をいく。放ってしまう。仕事の間はここに居なくていいよ、バイバイ。

 

始めはそんなことしたら自分らしさを失ってしまいそうで怖かった(この感情があるからこそ頑固だった)けど、まあ、個性、しぶとかった(笑)語弊を恐れずに言うと、私ごときに簡単に完コピされる程度の衛藤美彩でも、マネしたくらいで衛藤美彩になってしまう程度の私でもないのだ。だから思い切って自分を手放すくらいで大丈夫。そうすれば必要なところは残って、吸収すべきところも入って、新しいバランスが生まれる。

 

こうして書くと自分でも意味不明だが実際に私はもう一年くらい握手会モードを使うことでかなり上手くいっている。方向性だけ見極めたら衛藤リップ塗って髪型も少し変えて、よし。媚びてない。偽ってない。仕事してるだけ。


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たかが会社員が握手会モード(笑)と思われてもいい、別に無関係の他人に評価されなくても結果は裏切らない。

 

少しの変化だけで何かが上手くいくようになるなら「いつもどおり」でなくなることを恐れる必要はない。それが自分のスタイルではないことなんて自分が知っていれば問題ない。確固たるものがあるからこそ離れることも可能になる。逆にちょっと逸れたらもう戻って来られない程度のこだわりならそれこそ不必要。

 

最近は自分のことが結構よく分かる。確固たる自分スタイルを手放す時間を持つことで客観的視点を得られていることが大きいように思う。

 

今度はこういう経験を後輩指導にも生かしていきたいのだけど如何せんエピソードとして癖がありすぎるので、どうしようか。